ユニバーサルメニューという考え方
今回は、自治体サイトの話。
全国には、約17,00の自治体があります。これまでこのブログでお話ししましたように、それぞれの自治体が「シティセールス」という名のもとに、全国での生き残りをかけようとしています。これから日本に降りかかる「人口減少」という大きな波の中で、それは単なる観光客誘致でも企業誘致でもなく、その自治体が自治体として存続していくための競争になっていくだろうことは、多くの方が気付いていることだと思います。
その中で、Webの占める役割は「電子政府を」と言われていたITバブルの時代以上に重要になってきていますが、今回のお話は、その中でも「住民向け情報」の話。
都道府県とは違い市区町村の場合、出産や転入・転出など、住民への情報提供ということがとても重要な要素になってきます。手続き方法であったり、新しい制度の紹介であったり、住民の方が知らないといけない、または、知らないと損をする情報を、どのようにして伝えていくのかということへの、一つの、かつ重要な手段としてWebが位置づけられているからです。そのため、各自治体では、手続きや制度に関する情報をよりわかりやすく見せようと色々と工夫を凝らしています。他方で、欲しい情報がなかなか見つからない…という話を聞くのが多いのも自治体サイト。
しかし、よくよく考えてみると、市区町村の請け負っている手続きは全国共通だったりします。転出も転入も、入籍も出産も。言い換えれば、国にとって必要な手続きを市区町村が個別に窓口を開設して受け付けているようなものです。
だったら自治体サイトのメニューを全国で共通化してしまえば、どの自治体に行っても(=住む場所が変わっても)どの情報がどこにあるのかわかるじゃないの! という考え方に立ったのが「ユニバーサルメニュー」という考え方。NPO法人アスコエ が中心となって、この考え方を推進しています。
もう少し詳しく言いますと、自治体のサイトには、いくつかのメニューの取り方があります。
組織別であったり、事業別であったり、または、観光やキャンペーンといった「わかりやすさ」よりも「魅力的」な表現が必要なものもあります。これらを全部共通化しても意味ありませんし、それは無理ですので、いわゆる「ライフスタイル別メニュー」という部分を共通化しようという試みです。
ライフスタイルメニューとは、「妊娠」とか「子育て」とか「引っ越し」など、ライフスタイルごとに必要となってくるメニューのことです。これらは住む場所が異なっても、住民にとって必要になることには変わりありませんし、自治体の部署・組織がどのように構成されていかとは無縁です。これがどの自治体サイトでも一緒だとすると、引っ越し先の際もの情報収集の効率が格段に良くなることは想像に難くないですよね。
もう少しユニバーサルメニューについて知りたい方は、アスコエさんによる「自治体Webサイトはなぜ使いにくいのか?」を読んでみてはいかがですか?
ちなみに、このユニバーサルメニューの導入自治体として、アスコエさんのサイトには、行田市と新潟市が紹介されています。
自治体サイトのメニュー共通化を目指す「OpenUMプロジェクト」。
このユニバーサルメニューを導入しようという動き。これまでは、アスコエを中心にして大手コンサルティング会社がその導入サポートをしている程度でしたが、この1月から、さらに大きな波になってきています。自治体サイトのメニュー共通化を目指す「OpenUMプロジェクト」というものがスタートしたからです。発起人はWeb制作関連会社11社なのですが、数々の自治体・行政サイトを手掛けている制作会社も名を連ねています。
>> 「OpenUMプロジェクト」の概要 [PDf]
プレスリリースの内容通りに進んでいるとすると、もう少ししたらより具体的な方針が発表されるのではないかと思います。
自治体サイトの運営管理は、基本的に CMS の上で行われるようになってきていますので、CMSにも効率的に対応できるような「XML化要件設計」もプロジェクトの中に含まれていますね。
今年度も、サイトのリニューアルを検討している自治体もあるかと思います。
一旦リニューアルすると、それを数年は使うことになるのでしょうから、ぜひこのタイミングで「ユニバーサルメニュー」という考え方に着目してみてはいかがでしょうか。
特に地方にとって、このような共通化の動きはとてもうれしいことです。だって、忙しい中で喧々諤々をすることなしに、都市部と同じ土俵に立つことができるわけですから。逆に、せっかく予算を取ってリニューアルしたのに、国内の共通化トレンドを知らずに、この流れに乗らなかったとすると大変もったいないことです。
要は「知っているかどうか」、または、知っている人をプロジェクトメンバーに加えることができているかどうか…です。物品の購入ではないので、業者に丸投げするのではなく、内部にちゃんとしたブレーンを持つことが大切です。(サイトを更新できる、というスキルとは全く違うことに注意です。)
※2012年10月追記
現在、ユニバーサルメニューは、一般社団法人 ユニバーサルメニュー普及協会 が中心となって推進しています。
シティセールスにおける、本当の競争が始まります。
ユニバーサルメニューの導入による、自治体メニューの共通化。これは、利用者にとっても大変ありがたいことですし、サイトを構築する自治体側としても、全国共通メニューに従うことのメリットは大変大きいと思います。
しかし、実は、その先に大きなポイントがあるということを、今のうちに理解しておくことが重要です。
これまでの自治体サイトは、「情報公開」→「情報提供」→「情報サービス」という形で推移してきました。現在「情報サービス」というフェーズで、それができていたりできていなかったりというところで、自治体ごとの差が出てきています。
今回のユニバーサルメニューの導入、そして、CMSというツールの導入は、多くの自治体サイトを「情報サービス」のフェーズに押し上げることが期待できるのですが、しかし、多くのサイトが押し上げられた瞬間に、今度は「情報サービスの内容」が差別化のポイントになってくるということがポイントです。
CMSによる管理は、情報の更新効率を高めます(これも運用次第ですが…)。ユニバーサルメニューは、利用者の利便性を高め、必要な情報に上手にナビゲートしてくれるでしょう。しかし、その先の肝心な情報がダメダメではいけません。ツールや箱が良くなったのにその中身が空っぽでは始まりません。
ツールやメニューの組み直しだけに予算を使うのではなく、自治体の内部で、どんな情報をどうやって出すのか、どんな運用で進めるのか、といったところまでぜひぜひ取り組んでいただきたいと思います。忙しい中で大変なのはとってもよくわかりますが、シティーセールスの競合の時代が始まったのですから…。
ところで、わが町「富士見町」のサイトはどうでしょう。
こんな田舎の町ですが、ユニバーセルメニューをベースにしたものになっていますね!
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